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日銀が37兆円の株を売り始めたら何が起きる? — 誰も触れない日本株最大のリスク

日本銀行が抱える「37兆円の爆弾」

日本銀行は、世界の中央銀行の中で�も異例の存在だ。2010年から2024年にかけて、金融緩和政策の一環として日本株ETF(上場投資信託)を大量に購入してきた。その保有額は簿価で約37兆円、時価では約70兆円に達する。東証プライム市場の時価総額の約7%を日銀が保有しているという、前代未聞の状況だ。

2024年3月のマイナス金利解除、同年7月の追加利上げを経て、日銀は金融政策の正常化を着実に進めている。次なる焦点は、この巨額のETF保有をどう処分するか——いわゆる「出口戦略」だ。

結論から言えば、日銀のETF売却は日本株市場にとって最大のリスク要因の一つであり、個人投資家は今からこのリスクをポートフォリオに織り込んでおく必要がある。

なぜ日銀はETFを買い続けたのか

話は2010年に遡る。当時の白川方明総裁の下、日銀は「包括的な金融緩和政策」の一環としてETF購入を開始した。当初の購入枠は年間4,500億円と控えめだった。

転機は2013年。黒田東彦総裁による「異次元の金融緩和」で、ETF購入枠は年間1兆円に拡大。2016年には年間6兆円、2020年のコロナショック時には年間12兆円まで引き上げられた。

日銀のETF購入の目的は「リスクプレミアムの縮小」、つまり株式市場のリスクを低減し、企業の資金調達環境を改善することだった。しかし実質的には「株価下支え」の役割を果たし、日経平均が下落するたびに日銀が買い入れを行う「日銀プット」と呼ばれる状況を生み出した。

この政策の問題点は多岐にわたる。第一に、市場の価格発見機能の歪み。日銀という巨大な買い手が常に市場に存在することで、株価が実体経済を反映しなくなった。第二に、企業ガバナンスへの悪影響。日銀はETFを通じて間接的に日本の上場企業の大株主となったが、議決権行使は信託銀行任せで、ガバナンスの改善に貢献していない。第三に、日銀自身の財務リスク。株価が大幅に下落した場合、日銀のバランスシートに巨額の含み損が発生する。

出口戦略の選択肢

日銀がETF保有を縮小する方法は、主に以下の5つが議論されている。

選択肢1:市場での段階的売却

最も直接的な方法。毎月一定額(例えば3,000億円〜5,000億円)を市場で売却する。37兆円を年間3.6兆円ペースで売却すると、完了までに約10年かかる計算だ。

問題は市場へのインパクト。年間3.6兆円の売り圧力は、2025年の東証プライム市場の1日平均売買代金(約4兆円)の約1日分に相当する。数字だけ見れば吸収可能に思えるが、「日銀が売っている」という心理的影響は数字以上に大きい。2015年に中国政府が株式市場への介入を縮小した際、上海総合指数が約45%暴落した前例がある。

選択肢2:ETFの現物交換(個別株への変換)

ETFを解約して個別株に変換し、市場外で機関投資家や事業法人に売却する方法。市場への直接的な売り圧力を軽減できるメリットがある。

しかし実務上のハードルは高い。日経225連動型ETFの場合、225銘柄全ての現物株に変換する必要があり、流動性の低い銘柄の処分が困難。また、特定の銘柄に日銀の持分が集中している場合(ユニクロのファーストリテイリングなど日経225への寄与度が高い銘柄)、その銘柄の株価への影響が大きくなる。

選択肢3:政府系ファンドへの移管

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や新設の政府系ファンドにETFを移管する方法。市場への売り圧力を完全に回避でき、政治的にも「売却」ではなく「移管」と表現できるため受け入れやすい。

GPIFの運用資産は約230兆円で、国内株式の配分は約25%(約57兆円)。ここに日銀のETF37兆円が加わると、国内株式の比率が大幅に上昇し、GPIFのアセットアロケーションが崩れる。別枠での管理が必要になるだろう。

選択肢4:国民への直接配布

ETFを国民に直接配布する「国民ETF配当」案。37兆円÷1億2,500万人=1人あたり約30万円。時価の70兆円ベースなら1人あたり約56万円。「令和の所得倍増」の象徴として政治的なアピール力は高い。

しかし実現のハードルは極めて高い。配布の仕組み(証券口座を持たない国民が大半)、配布後の一斉売却による市場暴落リスク、法的根拠の整備など、課題が山積している。

選択肢5:永久保有(事実上の放棄)

「何もしない」という選択肢。配当収入(年間約1兆円)を受け取りながら、永久に保有し続ける。市場への影響は最小だが、中央銀行が永久に株式を保有し続けるという異常事態が固定化される。

市場への影響シミュレーション

最も現実的な「段階的売却」シナリオで、市場への影響を試算する。

前提条件は、売却ペース月間3,000億円(年間3.6兆円)、売却期間10年、日経平均の現在水準38,000円とする。

過去のデータから、日銀のETF購入が日経平均に与えた押し上げ効果は累計で約3,000〜5,000円と推計されている。売却がこの逆の効果をもたらすとすれば、10年間で日経平均を3,000〜5,000円押し下げる可能性がある。年間では300〜500円、率にして0.8〜1.3%の下落圧力だ。

ただしこれは「緩やかに売却する」ベースシナリオだ。何らかの理由で売却ペースが加速した場合(例えば日銀の財務悪化や政治的圧力)、短期的には日経平均が5〜10%急落するリスクシナリオも排除できない。

個人投資家はどう備えるべきか

日銀ETF売却リスクに対する個人投資家の対策を提案する。

第一に、日本株への過度な集中を避ける。新NISAでオルカン(全世界株式)を選んでいる場合、日本株の比率は約5%に過ぎないため、日銀売却の直接的影響は限定的だ。しかし日本株の個別銘柄に集中投資している場合は、ポートフォリオの見直しを検討すべきだ。

第二に、日経225構成銘柄の中でも、日銀保有比率が高い銘柄を把握しておく。ファーストリテイリング、東京エレクトロン、ソフトバンクグループなど、日経225への寄与度が高い銘柄は売却圧力が大きくなる可能性がある。

第三に、売却開始のタイミングを注視する。日銀は2024年3月以降、新規のETF購入を停止している。次のステップは保有ETFの売却方針の発表だ。日銀の金融政策決定会合(年8回)の声明文や総裁記者会見で、ETFに関する言及が増えてきたら要注意だ。

第四に、プットオプションやベアETFを活用したヘッジ戦略を検討する。日経225プットオプション(権利行使価格35,000円、期間6ヶ月程度)を保有資産の5〜10%分購入しておけば、急落時の保険になる。

結論:最大のリスクは「無視すること」

日銀のETF売却問題は、日本株投資家にとって「見えているリスク」だ。いつかは必ず実行される——問題は「いつ」「どのように」かだ。

過去の経験から、中央銀行の政策変更は常に市場に大きな影響を与えてきた。2013年のバーナンキ・ショック(テーパー・タントラム)、2018年のパウエル・ショック、2022年の日銀イールドカーブ・コントロール修正——いずれも事前に予告されていたにもかかわらず、市場は大きく動揺した。

37兆円の出口戦略が本格化する日に備え、今から準備を始めることが、賢明な投資家の取るべき行動だ。